技術者紹介





お客様の大切な思い出と共に長く時計を使ってほしい
技術者インタビュー
時計修理技術顧問 本間 直樹

2022.4.4


自分の痕跡を残さず精巧に直す

時計修理士として20年以上さまざまな時計を修理してきた本間氏。「私が時計修理士を志したきっかけは、複雑で精巧な時計の機構に興味を持ったから、という単純な理由でした。そこから実際に東京の学校に通い、その後スイスに渡って時計修理を学びました。現在はご縁があって五十君商店で技術顧問をさせていただいています。」


これまで数々の時計と向き合ってこられた本間氏だが、時計修理に対する考え方は昔と今とでは違ってきているとのこと。「昔は『自分の技術力を上げていきたい』『人より上手く直したい』といったことを考えていたのですが、時を重ねるに連れて『お客様により長く使っていただけるよう、“自分の痕跡を残さず元通りに直すこと”が何よりも大切だ』と考えるようになりました。」時計修理における腕の見せ所は、何よりも長持ちする時計を仕上げることであるという。




そう語る本間氏は、時計修理士として勤務する傍ら、時には若手の技術者への指導も行っている。そして、本間氏が“自分の痕跡を残さずに直す”という考えに行き着いたきっかけの一つは、指導中に出会った一人の生徒とのやりとりだったという。「ある時、1人の生徒にネジの作り方を教える機会があったのです。私はいつも通り旋盤(金属を加工する機械)を使い、彼に作り方を教えていました。実際に出来上がったネジを見た時、彼がこぼした『ただのネジだ。』という言葉が非常に印象的でした。おそらく彼は、手作業で作り上げたものにはわずかであっても個性が反映され、仕上がりに何かしらの違いが出るはず、と考えていたのだろうと思います。私としては、作ったネジが無個性なのは当たり前のことなのです。ただ、その時に改めて、自分自身が大切にしてきた感覚に気づきました。”100分の1単位で決まっているものを精巧に作り上げる”ということをいつの間にか当たり前のようにやっていたのだな、と思いました。」



自分が美しいと思える時計に仕上げるために

時計修理士として、時には教育者としてさまざまな仕事をこなす本間氏に普段の心がけを伺うと”技術者としての美的感覚を養うこと”だという。「当然、知識を身につけることは大切です。それに加えて、美的感覚だけはいつまでも失わないよう気をつけています。技術者として美しいと感じるのは”いかに精巧であるか”ということ。たとえば、歯車が一つだけ曲がっていたとすれば、歪んで見えて美しくありません。ただ、確かな目を養わなければ、なかなかこの感覚は掴めないと思います。時計の細かな違いに気付くためには、技術者ならではの美的センスを持つことが大切なんです。」



お客様からいただいた忘れられない手紙

お客様に長く使っていただけるよう、精巧に修理しお渡しすることを常に心がけている本間氏。長い経験の中で、高価なものや歴史的なものなど、数多くの時計を修理し、依頼者であるお客様と触れ合ってきたという。「全てのお客様が修理する時計に思い入れを持っていらっしゃいます。どんな種類の時計であっても、どんな修理内容だったとしても、同じモチベーションのもと常に修理しています。」そんな本間氏には、特に心に残っているお客様とのエピソードがあるという。「ある時、パイロット用の時計を修理してほしいと私の元を訪れていただいたことがありました。戦時中、特攻隊員の方が実際につけられていたものです。破損がひどく、何十年と修理することができなかったそうで、時計をお直ししてお渡しした時はとても喜んでくださいました。その時にいただいたお手紙には、”戦後70年の肩の荷がおりました”という言葉が綴られていて、目頭が熱くなったことを今でも鮮明に覚えています。」



自分を超える人材を作ることが
教育のやりがい


本間氏に教育者の仕事について伺うと、『自身が時計を修理するのと教育することは全く別の仕事だ』と語る。「初めは自分の知っていることをそのまま教えることが大切だと思っていたのですが、今は初めから全てを教え込むのではなく、生徒が自ら考えて同じ結論に至るよう成長させることが大切だと感じています。」本間氏は若い教え子たちについて、『今の世代の子たちはさまざまな環境や技術に触れていて、鋭い感性を持つ子ばかり』だという。「教育は弟子や自分のコピーを作るということではありません。自分が長年かけて身につけてきた知識や経験を継承しつつも、将来的には自分を超える人材を育てたいのです。それこそが教育の難しいところであり、やりがいですね。」




大切な時計と思い出を
いつまでも身につけていて欲しい

最後に本間氏に長く時計を使っていくために、お客様に気をつけていただきたいことを伺った。「まずは当たり前のことにはなるのですが、大切に扱っていただきたいと思います。時計とは、手に取った人たちが感情移入する特殊な機械です。どんな時計であっても、必ず何かしらの思い入れを持つでしょう。長く時を刻み、思い出を大切に繋いでいくためにも、3年から5年のペースで点検、もしくはオーバーホールを行なっていただきたいです。特に日本は湿度が高い国なので、使っていない時計がダメになってしまうなんてことはよくあります。仮に問題なく動いていても、ぜひ定期的にメンテナンスに出していただきたいです。」

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